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距離で守る

かつては広々とした田園の中に数件の住宅がポツンポツンと建ち、 ゆっくりと時を刻んでいたこの場所は、大規模な区画整理事業により広い国道が突き抜け、 その沿線に大型店舗が軒を連ね、碁盤目のような道路によって切り取られた四角形の 住宅用地が整然と並ぶ場所へと変わった。

その余波は施主の住む場所にも影響を及ぼし、若かりし頃初めて建てた家は取り壊しを余儀なくされ、 区画整理事業により用意された一角に移ることになった。

便利さと引き換えて急激に変化する環境、新しい家へ移り住むことへの不安や大型店舗による住環境の悪化 への懸念、そんな不安を取り除き、新しい環境での生活がスムーズにかつ豊かに送れるよう設計した。

まず最初に考えたのは、周辺環境と住空間との境界に「間」を取ることであった。

昔、施主の住宅は田園という外部環境によって市街地の雑踏から守られていた。 その田園を区画整理の敷地内に「間」として変換しようと考えた。

道路から玄関までのアプローチを長く取り、目の前にある大規模商業施設の駐車場との意識的距離を置いた。 そのアプローチに連続する広縁は歩行者専用の遊歩道がある南側まで伸び、 原風景を共に過ごした友人であるご近所とのコミュニケーションを楽しむ場になる。

寝室には周辺環境と格子によって仕切られた坪庭が設けられ、施主だけが楽しめる自然として落ち着いた 雰囲気をかもし出す。 夫婦が最も多くの時間を費やす和室は大きな建具と障子によって光や視線を柔らかくし、車や人影から内部空間を守る。 区画整理された町並みは、合理的であるが故に余裕が存在しない。

だからこそ、与えられた敷地の中に「間」を持たせることが、夫婦の生活や心のゆとりとなり、 新しい環境での生活をやさしく包むことができるのではないだろうか。

建築場所 静岡県
用  途 専用住宅
構造規模 木造2階建
敷地面積 220.66m²
建築面積 91.99m²
延床面積 138.36m²

設計監理担当:大矢雅祥、木村真輔(旧所員)


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