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記憶の中に棲む家

未だ周辺に水田と、まばらに存在する住宅群とが入り混じる環境は、市街化調整区域の為、 数十年前から変わらない地域であり、また今後も急激な変化のない地域と言える。 敷地北側には、この地域のシンボルと言える山(標高500m)が四季折々の風景を見せ、 山との間には美しい水田が麓まで延びている。

計画にあたって家族との打合せを重ね、その思いを聞いていくと、 昔からの近隣付き合いを大切にしている事、家族のコミュニケーシュンが非常に密である事、 また、高草山と水田を望む風景が家族の心の一部になっていることを感じた。

プランを構成する上で、ご近所が気兼ねなく入ってくるような古くからある地域性に合わせて、 玄関、居間、食堂、和室が障子によって繋がっている田の字型プランの応用のような構成をとり、 集まりの多い地域の特性に対して住宅が受け皿となれるよう計画した。

門扉から玄関までのアプローチには長い下屋空間を設け、外部(公)から内部(私)に移る際に、 気持ちの切り替えが行えるように心情的にも配慮した。またこの空間は高草山から吹き降ろす北風を 軽減させている。(完成後にお宅にお邪魔したときは、ご近所との立ち話の場にもなっていた)

2階には高草山が麓まで見渡せる家族共有の読書空間を配し、季節ごと時間ごとに移ろう山の風景を 楽しむことができる。大きな窓によって切り取られた高草山と水田は、何時も身近に当たり前のように 存在していた風景をもう一度深く心に棲まわせるだろう。

そこにあるべき空間や姿を形にするだけではなく、そこに住まう人、またその地域性、 風土を加味した上で空間が創意されなければならないと思う。 住み継がれた場所に新たに住まいを創意するには、必ず、そこに住んでいた記憶を引きずりながら新たに生活を再開させる。 このことを建築は真摯受け留め、空間へと昇華されなければならない。 今回の計画ではそのような建築を目指した。

建築場所 静岡県
用  途 専用住宅
構造規模 木造2階建
敷地面積 952.88m²
建築面積 154.83m²
延床面積 214.76m²

設計監理担当:大矢雅祥、木村真輔(旧所員)


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